「わたしね、頑張ったよ」
「莉緒はいつも頑張っているよ」
黙って話を聞いていたユイくんが口を開く。
思わず頬が緩む。
こういう時はすぐに言葉をくれるよね。
ユイくんはいつもわたしのことを認めてくれる。
自己肯定感を高めてくれる。
嬉しくて泣きそうになった。
「あ、鹿だよ。二頭もいる」
泣きそうになったのを誤魔化そうとしたのが半分、鹿に興味がとられたのが半分で声をかける。
「あ、またいた。葉っぱ食べてる」
車が進めば次々に歩道に鹿がいる。
かわいくてじっと見てしまう。
今は以前ユイくんと来て星や月を見た山を登っている。
この前よりも鹿と遭遇する気がする。
日中すごく晴れていたからかな?
そういうのは鹿にとっては関係ないのかな。
たまたまな可能性のほうが高いかもしれないね。
またここで星を見るのかな、と思っていたけど前停めた駐車場を通り過ぎる。
ってことは目的地はここではないのか。
車で登った山を今度は下って行く。
ぐねぐね道だから体が左右に大きく揺れる。
安全運転でゆっくりとカーブを曲がってくれるけど、それでもここのカーブは急だから遠心力に振り回される。
その間も鹿が歩道や山の斜面を下りてすぐのところにいてついつい目で追ってしまう。
葉っぱをむしゃむしゃしている姿がなんともかわいらしい。
飛び出してくる様子はなく堂々としているから、やっぱり車に慣れているかもしれない。
フロントガラスから星が見えて覗き込む。
「あ、オリオン座だ」
「止まる?」
「うん、ちょっと見たい」
すぐに車を路肩に停めて、三角が描かれたボタンを押してハザードランプをつける。
真っ暗な中、カチカチ音を立てながら眩しい光がついたり消えたりを繰り返し、道を照らしている。
「見えにくいな。消すか。車来てないし」
「そうだね」
同意すると再び三角が描かれたボタンを押す。
ハザードランプは消えて真っ暗な空間が静寂に包まれる。
窓から顔を出して空を見ると、暗い空にたくさんの小さな白い光が瞬いていた。
オリオン座しかわからないけど、そのオリオン座をかたどる星さえ一瞬探すほど星がたくさんある。
どれがどの星座になるのかわからない。
星ってこんなにあったんだ、と改めて感じる。
「綺麗だなぁ」
吸い込まれそうになるほど綺麗な星空。
下は真っ暗なのに、空はこんなにも明るい。
数多の星が輝き空を照らす。