「今は楽しそうで安心した。これが本当のリセットだよ」
床に置いていたカバンを拾い肩にかける。
何も言うことはできなかった。
「時田さんだけはいつも笑っててね。幸せでいてね」
最後にそれだけ言うと教室を出て行った。
戸田さんは全て話してくれた。
これが本音だということはわかる。
あの笑顔も偽物ではない。
たぶんわたしには抱えきれないくらい深いものや闇もあって、理解するにも時間がかかる話もあって。
言葉の外側に何を散りばめられたのか。
言葉の内側にどんな思いを核として置いているのか。
わからないけれど、本音で話してくれたことによってその片鱗を初めて見ることができたような気がした。
一人になり静まり返った教室。
戸田さんの残した余韻によってわたしは少しの間、その場から動くことができなかった。