「あの時だってそう。カッターを握っている私に気づいて手当てをしてくれたのは、時田さんだった」
「それは、わたしのためにしてくれたから」
「ううん。きっとあれが時田さんのためにしていなかったとしても、時田さんなら手当てをしてくれた。あなたはそういう人だから」
買いかぶりすぎだ。
わたしはそんなにいい人じゃない。
「みんな自分が悪者にならないように必死だった。あの状況で自分の身を守ることだけを第一に考えていた」
「…………」
口を開けて、何か言おうとしたけど擁護する言葉なんて出てこなかった。
だって、それはわたしにとって本当のことだから。
戸田さんの言うことは事実だ。
自分が悪者にならないように、わたしに嘘の寄り添いをしてきた。
そう感じているのだから、何も言い返すことはできない。
「時田さんはすごく優しい心を持った人だよ」
そんなことない。
なのに、戸田さんは言い切ってくれる。
ここまでわたしを良く思ってくれているのはユイくんしかいないと思っていたけど、戸田さんもわたしを過大評価する。
「だから時田さんの周りには相応しい人がいるべきだと思った」
「それってどういう意味?」
思わずすぐに聞き返す。
何かが自分の中で引っかかったから。
「友達は選んでほしい。誰と一緒にいるか、信頼できる人かを考えてほしかった」
どうしても戸田さんの言いたいことが見えてこない。
言葉の意味はわかるんだけど、意図がわからないから繋がらない。
「芦屋はやっぱりだめだった。友達より異性を選んだ。時田さんと一緒にいるべきではない人だった」
芦屋はミライちゃんの苗字だ。
だめって。それってもしかして……。
「あの画像は……」
それ以上は口にすることができなかった。
憶測で言うのはよくない。
途中で止めたけど、戸田さんの耳には届いていてわたしの言いたいこともきっと伝わった。
久しぶりにわたしと目を合わせた戸田さんはゾッとしてしまうくらい迫力のある満面の笑みを浮かべていた。