わたしが一番輝いていたんじゃないかと思う時。

改めて振り返ると理想の自分だと思った時だ。

正直、誰に声をかけたかなんて意識していない。

ただみんなと一緒に遊べたら楽しいよね、という短絡的な理由だけで後先考えずに何でもできた時期。


「別に友達を作るつもりもなかった。でも、思った以上に声をかけられたことが嬉しかったんだよね」
「そうなんだ。そのあとは何もしてないけど……」
「その一回で私には十分だった。存在を認めてもらえただけでよかった。あの時はありがとう」


わたしからしたら何の気もない行動。

それをずっと覚えてくれていて、十年近く経った今になってもお礼を伝えてくれる。

驚きと戸惑いと、それ以上に嬉しい気持ちに包まれる。


「時田さんは特別。だから、後藤のターゲットになった時にはいつか助けるつもりだった。ずっと絶好の機会をうかがっていた」


知らなかった。

そういえばあの時、後藤さんは『待ってて』と言っていた。

あれは聞き間違いではなかったんだ。


「あいつが自分でその機会を作ったんだから笑っちゃうよね。調子に乗りすぎ。世界は自分のものみたいに、自分が主役みたいに。この世界はみんなのもので、みんながそれぞれこの世界の主人公なのに」


嘲笑しそのまま窓の外の空を仰ぐ。

つられて空を見た。

淡い青と赤が競うように真ん中に迫ってきて、ぶつかり紫色になる空はずっと見ていられるくらい綺麗な色だ。


「時田さんはずっとそのままでいてほしい。優しい世界で優しい人たちと笑っていてほしいって思ってる」
「わたしは、戸田さんが思うほどいい人じゃないよ」


ムカついたりする。

苦しめばいいって思ったこともある。
傷つけられてもいいじゃんって思ったこともある。

自分が嫌な思いをしなかったらそれでいいって思ったこともある。

さっきだってそうだったから。


この世界は荒んでいる。

正直者が馬鹿を見る世界。

正直でいることに意味はない。

自分勝手なことたくさん考えた。


「そうだとしても、そんな時田さんに救われた」


ここまでしてもらうようなこと、わたしは絶対にできていない。

それなのに、ここまでのことをしてくれる。