「戸田さんはどうしてわたしを助けてくれたの?」


あの時、あの瞬間、戸田さんだけがわたしを助けてくれた。

上辺だけの言葉じゃなくて、体を張って止めてくれた。
ただ一人、戸田さんだけが。


「ただ単に後藤が嫌いっていうのがひとつ」
「どうして?」


シンプルに疑問に思った。

二人はいつも一緒にいたのに。


「もうひとつ」


戸田さんはわたしの疑問には答えずに続ける。


「時田さんに救われたことがあるから」
「え……」


知らない。

わたしが戸田さんに救われた、助けられたことはある。

けど、わたしが戸田さんを救ったという記憶はない。


いくら考えても思い出せない。

戸田さんの記憶違いじゃないかと思う。

でも戸田さんの表情は真剣で真っ直ぐな瞳をわたしに向けている。

微塵も疑っていない。


「あの、申し訳ないけど思い出せなくて……それは本当にわたしであってる?」


戸田さんが『救われた』なんて言うくらいだからすごいことをしていたに違いない。

だとしたら覚えているはずなのに、全くというほど思い出せない。

少しも思い当たらない。

引っかかる箇所がないんだ。


「時田さんだよ。小学生の頃。覚えてない?」


そう言う戸田さんの表情はすごく優しかった。

覚えていないというのに、ここまで優しい表情をしてくれるんだ。

小学生の頃、と言われても思い当たらない。

コクリと頷いて肯定する。

戸田さんは嫌な顔ひとつしない。

むしろそれが当然かのように笑っている。


「小学二年生の時、時田さんと同じ小学校に転校したけどみんなに馴染めなくて浮いてた。けど時田さんが声をかけてくれて、みんなと馴染むきっかけを作ってくれた」

「あ……」