「それとカッターは同じだよ」
誰かを傷つける可能性がある凶器になるということが。
誰しも誰かを傷つける武器を持っている。
時に言葉は、本物の凶器よりも深く人を傷つける。
「また、同じことを繰り返す前にもう一度考えて。わたしも考える。自分のこと、周りのこと、みんなのこと」
目を向けてほしい。
気持ちを考えてみる。
知ろうとする。
それだけで、ちょっとだけ変わるかもしれないから。
「さむ」
「いたすぎ」
勇気を出して言ったあと、冷たい言葉が耳に届く。
わかってるよ。
わたしでも痛いなって思うもん。
それでも言いたかった。
言いたくなった。
だからわたしはこれでいい。
「偽善者」
「やっぱり悲劇のヒロインじゃん」
「気分悪い。行こ」
教室を出て行く人もいる。
それでもいい。
最後まで聞いてくれただけで、今はいい。
わたしの言葉に耳を傾けてくれただけで、奇跡みたいだ。
「頑張って伝えてくれてありがとう」
その言葉に顔を向けると美紅ちゃんが微笑んでくれていた。
「確かにあの時は無視してた。ごめんな」
「つらくしてたね」
「ううん。わたしも今、聞いてほしくて過激に言った。ごめん」
「なれ合いきも」
意見はふたつにわかれた。
みんなに受け入れてもらえるなんて思っていない。
ただ耳に入ればそれでいい。
怒りの記憶でもいい。
ふとした瞬間に思い出せたら。
全く思い出さない人もいるかもしれないけど、それはそれで仕方がない。
「時田は深く考えすぎだと思う」
「ね?そんな考えすぎないでたまには流れに身を任せるのもいいよ」
「みんなそれぞれ悪いとこあったし、これを機にリセットしよう」
反応は様々。
人の考え方にはいろいろある。
考えすぎ、だなんて考えるに決まってるじゃん。
考えないのはその経験をしたことがないからだ。
きっと今まで人間関係で特に問題がなくやってこれた人。
いや、深く考えない性格だから人間関係をうまくやっていけているのかもしれない。
そう考えると「流れに身を任せる」というのもきっとアリなんだ。