拳を強く握りしめる。

気分が悪い。

けどこの機会を待っていたんだ。

深呼吸をして余分な体の力を抜く。

覚悟を決める。
勇気を出す。


「じゃあ、言わせてもらうけど」


口から出た言葉は情けないけど少し震えていた。

幸いそのことに気づいている人はきっといない。


「わたしが一番つらかったのは、後藤さんにいじめられている時の周りの視線、悪口だよ」


予想していたようなセリフではなかったのか、さっきまで言いたいことを言っていた人たちが黙る。

瞳には困惑の色が混じった。


「後藤さん一人にいじめられるくらいならそこまでつらくならない。周りの環境が助長させてわたしを痛めつけた」
「何言ってんの?」
「同罪だって言ってるの」


はっきりと言葉にした瞬間、一部の人の目が変わる。

怒りに変わった。

足を肩幅広げて踏ん張る。

今にも崩れ落ちそうになるの気合いで耐える。

正面きってぶつかるのって怖い。

でも、ここで逃げてちゃ変わらない。


「直接何かしていたわけじゃないかもしれない。それでも、陰で悪口を言って視線で追って存在を消していた。それは主犯が動きやすい環境を作っているだけ。共犯者だ」


無関係な人なんていない。

なんなら正面切ってきて後藤さんのほうがまだマシだ。

後藤さんという陰に隠れて、匿名を使って大きくなっている人のほうがよっぽど悪質でタチが悪い。


「何気ない言葉も、意味のない視線さえも、全て誰かを傷つける凶器になるんだよ」


状況によっては何でも凶器になる。

目には見えないけど、どんな鋭い刃よりも切れ味抜群の凶器に。

それはじわじわと追いつめて消えない傷をたくさん作る。

防ぎようなんてない。
百発百中だ。