「ところにより、アメ」


さっきの言葉を繰り返すと、不敵な笑みを浮かべてわたしの横を通り過ぎた。

何がしたいのかよくわからない。

戸田さんの背中を少し見送ったあと、違和感を覚えた胸ポケットに手を入れ確認する。


「……飴?」


ポケットから出てきたのは銀色の紙に包まれている、たぶん金柑のど飴。

風邪気味の時にたまに舐めていたのと同じもの。
金柑のど飴を持っているなんて意外だと思ったけど、すぐにそれ以上の感情が湧き上がってくる。

馬鹿にされた。

〝雨〟と〝飴〟をかけて馬鹿にしてきているんだ。

戸田さんは後藤さんと違ってイマイチ読めないし、不思議な雰囲気がある。

一緒にいるけどタイプは違うふたり。

でも、いつもふたりは一緒にいるから戸田さんも後藤さんと変わらない。

回りくどく馬鹿にしてくるなんて、悪趣味だ。
楽しんでいるに違いない。

ベリっと乱暴に金柑のど飴の包み紙を開けて口に入れると、舐めずにすぐに噛んで飲み込んだ。

誰もいない廊下を歩いてロッカーに行き、体操服を取り出してトイレで着替える。

髪の毛は濡れたままだけど、今日はタオルを持ってきていない。

ハンカチだけじゃ水分をとりきることもできないけどいいや。

これでいい。
どうでもいい。
いつもと変わらない。

今日も変わらず、最悪な日だ。