突然かけたにも関わらず、龍之介くんは五コールで電話に出てくれた。
『……もしもし?奈々美?』
「あ……龍之介くん」
『何かあったか?』
「……ううん。ただちょっと、龍之介くんの声聞きたくなったから」
聞き慣れた低い声。再び心が少し軽くなる。
初めての電話は、衝動的にかけたからか話題なんて無くて。
言葉に詰まってしまって、沈黙が続く。
特に用は無いのに電話をして無言になってしまった私に、龍之介くんは
『なんか、ほとんど毎日のように会ってた時期もあるからこうやって電話で話すのも変な感じするな』
と話題を振ってくれて。
お互いの近況や、美優ちゃんの話をしているうちにあっという間に時間が過ぎ去っており、気が付けば一時間以上が経過していた。
「ごめんね。もうこんな時間」
『いいよ。俺も暇だったし。奈々美と喋りたかったし』
少し笑いを含んだ言葉に、胸が高鳴る。
電話越しに聞く声は、ダイレクトに耳から頭に響くからいつも以上に照れくさい。
じわりと熱を持つ顔に冷たい手を当てながら上を向いた。
「っ……ありがと龍之介くん。ちょっと落ち込んでたんだけど、龍之介くんの声聞いたら元気出た」
『やっぱ何かあったんだな?今度会った時に話聞かせろよ』
「うん。ありがとう」
今話してみろ、と言わないところが龍之介くんの優しさだ。
私自身、何が起こったのかよくわかっていないしまだ全く整理ができていない。今龍之介くんに話をしたところで支離滅裂もいいところだろう。
頭の中の整理ができたら、お母さんと龍之介くんに話してみよう。
近いうちに一緒に美優ちゃんに会いに行こうと約束して、電話を切る。
その時ちょうど玄関の鍵が開く音がして、再び部屋を出て階段を降りていった。