そのままタクシーが向かったのは、一軒の戸建て。
閑静な住宅街にあるそこは、庭付きのお洒落なお家。
真っ白な外壁に焦げ茶色の大きなドア。
緑に囲まれた玄関はとても可愛らしく、看板さえあればカフェと言われても疑わないほどの外観。
「……可愛い」
ぽつりと呟いた声に嬉しそうに笑ったお母さんは、
「これは可愛いものが好きな奈々美のためにお父さんが考えてくれたのよ」
「そうなの?」
「うん。ほら、そっちにブランコがあったり。あれはお父さんの手作りなの。幼稚園の時は雨の日でもあれに乗りたがって大変だったわ」
「え?私が?」
「そうよ?雨ガッパ着てね、長靴も履いて。雨の中ブランコ乗って次の日風邪引いちゃって、お母さんがお父さんにこっぴどく叱られちゃったり。奈々美は結構おてんばな子だったんだから」
私の幼少期を思い出すお母さんは、そのまま家の中に入るとココアを淹れてから奥から私のアルバムを持ってきて、色々と昔の話を聞かせてくれた。
庭にあったブランコに乗って嬉しそうに笑っている私の写真。今の自分の顔にはまだ見慣れない部分はあれど、何故か小さい頃の写真は懐かしいと感じる。
小学校に入学した後の写真はしばらく私の笑顔が並んでいたものの。
いくつかページを捲っているうちに、次第に写真の背景が変わっていって。その中の私からも笑顔が薄くなっていくような気がした。
「この頃から、お父さんとお母さん、海外によく行くようになっちゃって。この辺の写真からは二軒隣のおばさんが撮ってくれたものなの。いつも快く奈々美を見てくれてね。今回奈々美が入院したこともすごく心配してたのよ?あとでお礼に行かなきゃね」
「……うん」
その後もしばらくアルバムを見つめ、何か記憶に繋がりそうなものを探したものの。
特にピンとくるものはなく、そっとアルバムを閉じた。