「……奈々美、どうかした?」


「ううん。ただちょっと、ずっと病院にいたから、初めて外に出る感覚で不安で……。これから私はどうなるのか想像できなくて」



無意識に握っていた手を取ったお母さんは、



「大丈夫よ。お母さんが一緒なんだから。それにお家に帰るだけ。何も不安がることないわ」



と励ましてくれる。



「うん……」



優しい笑顔に頷くものの、不安は少しも小さくならなかった。


何故だろう。病院から出発してタクシーに乗った私たちは、元々住んでいた家に戻るのだが。


近付いて行くたびに、なんだか心拍数が上がって行く気がする。


それは、緊張やワクワク感なんてものではなくて。


どうしてか、じわじわとやってくる恐怖のようなもの。


例えるなら、そう。ホラーが苦手な人がお化け屋敷の入り口にだんだん近付いて行くような、そんな感覚。



「奈々美、本当に大丈夫?具合悪い?」


「……大丈夫。ちょっとそわそわしてるだけ」


「……でも顔色が良くないわ。家に着いたら温かいココアを淹れてあげる。それ飲んで、今日はゆっくり寝ようか」


「ありがとう……」



力無く頷いた私に、お母さんはこれからのことを話し始める。


その表情は嬉しそうでありながらも、どこか切なさを感じているような。何かを考えているような。


聞きながら頷いているうちに、タクシーは住宅街に入った。