それから、一ヶ月後。



「奈々美ちゃん、退院おめでとう」


「立花さん。たくさん助けてもらってありがとうございました」


「寂しくなるけど、嬉しい別れだから泣かないわよ。それにこれからも通院で会うだろうし」


「うん。私も泣かない」



秋の訪れを感じる十月の今日、私は無事に退院の日を迎えた。


結局あの後も中庭に何度も通ったものの、記憶は戻らずじまい。


そのもやもやは消えないけれど、記憶がないだけで生活には困ることがないため、歩けるようなった私はこれ以上入院しているわけにもいかなく退院する運びとなった。


お母さんもこの一ヶ月の間に日本に帰ってきており、昨日まで毎日のようにお見舞いに来てくれた。


今日の退院も、お母さんが付き添いで全部手続きを終わらせてくれて迎えにまで来てくれたのだ。


怪我もすっかり良くなり、あとは通院しながら定期的にリハビリに通うことで今まで通りの生活に少しずつ戻していこうとの東海林先生の判断だ。



「桐ヶ谷さんいいかい?無理して全てを思い出そうとしないこと。約束してね」


「はい」


「奈々美ちゃん……寂しくなるけど、私ももう少しで退院できそうだから頑張るね!」


「うん。私もリハビリに来るし、美優ちゃんに会いに来るね」



東海林先生や立花さん、それから美優ちゃんにも見送られながら私は無事に病院の外に出た。