「……美優ちゃん。私ね?」
そこまで呟いて、ふと視界に入ってきた龍之介くんが何度も首を横に振る。それに微笑みを返し、"大丈夫"と伝える。
「───私ね?生まれてからここに入院するまでの記憶が一切無いの」
意を決して紡いだ言葉に、美優ちゃんは驚いたのか身体を離す。
「……え……?」
今度は美優ちゃんが言葉を失う番だった。
「事故で、記憶を全部失っちゃったの」
口を開くものの、うまく声を発することができないらしくパクパクさせるだけ。
「ごめん、美優ちゃんを混乱させたくなくて言わなかったの。今は私のお母さんが面会に来てて。龍之介くんには前に私が倒れた時に伝えてて。それで心配して来てくれたの」
「わ、たし……私、何も知らなくて……」
「うん。美優ちゃんは知らなくて当たり前なの。私が言わなかったんだから。美優ちゃんは何も悪くないの。だから気にしないで」
「でもっ……」
「ありがとう、心配してくれて。でも泣かないで?美優ちゃんが泣いてたら、私までもらい泣きしちゃう」
美優ちゃんはしばらく
「だって、何も覚えてないなんて」
「私……自分のことで精一杯で」
と言葉と共に涙をこぼす。
私を想ってくれての涙だとわかるから、それを見ているだけで胸が痛くなって、もう一度優しく抱きしめた。