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「そうか。良かったな」


「うん。龍之介くんも心配してくれたんだよね。ありがとう」



お母さんはまだ仕事の手続きで忙しいから、と私をぎゅっと抱きしめてから帰っていった。


お母さんと入れ違いのようにデイルームに龍之介くんが入ってきて、つい先ほどまでお母さんとの話を聞いてもらっていた。



「表情も明るくなったな」


「そうかな。このまま記憶も取り戻したいなぁ……」



龍之介くんは私と両親の間に何か確執があるのではないかと思っていたらしく、予想よりも私が嬉しそうだから拍子抜けしたらしい。


私も何か胸につかえていたものが取れたような気がして、一安心していた。






───そんな時。



「記憶?……取り戻すって……なにそれ。どういうこと?」


後ろから聞こえた声に驚いて、私と龍之介くんは勢い良く振り向いた。



「……美優ちゃん」


「奈々美ちゃん、記憶って何?お兄ちゃんは知ってるの?」


「……美優」



席を立って美優ちゃんの元へ行く。


悲痛な顔をした美優ちゃんは、私にそっと抱きついてきた。



「……奈々美ちゃん、何か思い出せないことがあるの?」



確信をつくような疑問に、私は固まってしまい言葉に詰まる。


小さな身体を優しく抱きしめ返し、深呼吸をする。


迂闊だった。こんな誰でも入れる場所でする話ではなかった。


でももうここまで聞かれてしまったのだ。


これ以上誤魔化すことも隠し通すことも、そんなことできやしない。