「仕事の規模を、縮小しようと思うの」
「え?」
「家族よりも仕事を優先するなんて、母親失格よね」
「……」
「日本の方が治安がいいからって、私たちのエゴで今まで奈々美を一人にしすぎてしまった。今回のことで身をもって理解したわ。仕事よりも家族を大切にしなきゃって。仕事を失うより家族を失うことの方がよっぽど怖いって。そんなこと、当たり前のことなのに。今更気付いたって遅いのにね……」
何度も謝るお母さんに、私は「もういいよ」と首を横に振った。
どうやらお母さんは今後は海外に向けてはオンラインのみで対応することにしたらしく、今は日本に拠点を戻すため、その手続きで忙しく帰ってこられなかったのだとか。
「記憶が無くたって、あなたは私の大切な一人娘。信じてもらえないかもしれないけど、奈々美の命が、奈々美自身が何よりも大切なの。だからもう、心配しなくていいからね」
「……お母さん。今度からは、一緒にいられるの……?」
すんなりと呼べた"お母さん"。夢で見ていたからなのか、潜在的にこの人が母親だと私自身が認識しているのか。
そこに違和感は全く無く、むしろその懐かしさに涙が出そうだ。
「うん。これからはちゃんと奈々美と一緒にいるわ。お父さんは向こうでの任期があるからまだ帰って来られないんだけど、お仕事が終わったら早く帰ってくるって」
「……そっか」
お母さんが帰ってきてくれるだけでも、嬉しい。
一人でも家族が近くにいる。それだけで、嬉しい。
夢で見た記憶しか両親のことを覚えていないけれど、目の前にいるお母さんの顔を見ていると、心が温かくなる。
笑顔を向けると、お母さんも私に笑顔を返してくれた。