"おかあさん、だーいすき!"
"おかあさん、ずっといっしょにいてね!"
幼い私が擦り寄るようにそう言って指切りを求めて。
"ふふっ、可愛いわね。もちろんよ"
優しく微笑みながら小指を絡めてきた、今より若いお母さん。
"奈々美、お父さんのことは?"
"んー……、おとうさんはおしごとばっかりだから、ちょっとすきだけどきらーい"
"えぇ!?"
私の言葉にショックを隠しきれずに落ち込むお父さん。
"ふふっ、あなた、日本にいる間にたくさん遊んであげて?"
"うんっ、あそんであそんでっ!"
"……そうだな。よし、奈々美、お父さんと何して遊ぶ?どこか行きたいところはあるか?"
"うー……ん"
"あ、わかった奈々美、遊園地に行こうか!"
"ゆうえんち!?ほんとう!?やったああ!"
そんな、微笑ましい親子の触れ合いが幾度も頭の中に映像と共に流れてきて。
パズルのピースがひとつずつハマっていくような、そんな不思議な感覚がした。
お母さんとの対面は私の体力が持たないという理由で、今日は一旦やめることにした。また明日来てもらうことにして、私は病室でカーテンを閉め切って眠る。
途中、龍之介くんが来ていたのは知っていたけれど、正直それどころじゃなくて。
お母さんの、傷ついたような表情が忘れられない。
「……奈々美、いつでも話聞いてやるからな」
カーテン越しにかけられたそんな言葉。今はその優しすぎる言葉が、苦しいくらいに胸に沁みていく。
「……ありがと」
布団の中で小さく呟いたか細い声が龍之介くんまで届いたかはわからないけれど。
枕を濡らさないように目からこぼれ落ちる涙を拭うのが限界だった。