「っ……」
"お母さん。わたし───"
何かを思い出せそうなのに。
「奈々美!?どうしたの!?」
"奈々美、いつも通り───"
"だからお母さん、わたしは"
いつもと違って、砂嵐のようなザーッとした音が記憶を思い出すのを阻むように頭の中を掻き乱す。
"また来週───"
"嫌だよ、───"
"そんなこと言わないで"
会話がよく聞こえない。
「奈々美!頭が痛いの!?看護師さん!奈々美が!」
"奈々美!"
"奈々美"
頭の中に響く、私を呼ぶ様々な声。
それが酷く耳に残る。
「奈々美ちゃん。一度座って深呼吸しようか」
隣から穏やかな立花さんの声が聞こえて、少し安心したら息を止めていたことに気がついた。息が吸えるようになり、いくらか頭痛がマシになる。
それでもまだ痛む頭。ぎゅっと目を閉じると、ぐるっと大きく場面を転換したように飛び込んでくる記憶の断片。夢よりも鮮明なそれは、必死で私に何かを思い出させようとしていた。
"奈々美はいい子ね"
"いっぱい食べて大きくなるのよ"
"ほら、早く寝ないと大きくなれないわよ?"
よく子どもに言い聞かせるような言葉がいくつも頭の中に流れてくる。
そのどれもが優しい声で、心の奥が温かくなるようなもの。