「あいつはそんな弱いやつじゃないから。今はちょっと落ちてるだけで、またすぐ復活するから。だからちょっとの間そっとしといてやって」
「うん。わかった」
こんなに優しくて思いやりのあるお兄ちゃんがいるんだ。きっと、大丈夫。
そう思うと同時に、そんな存在がいることが純粋に羨ましいと思ってしまう自分が嫌いだ。
心の奥にどす黒い感情が見え隠れしているようで、自分の性格の悪さに吐き気がしそうだ。
「ただいま奈々美ちゃん、お兄ちゃん」
「おかえり。リハビリどうだった?」
「それがね?聞いてよ奈々美ちゃん、いつもの先生が急にお休みになっちゃって別の先生だったんだけど。今日の先生、すんごいスパルタだったの!手のね?───」
部屋に戻ってきた美優ちゃんの笑顔には、どこか力強さが見えた気がした。
「だから悔しくて悔しくて!明日もあの先生だったらどうしよう!ねぇ奈々美ちゃんどう思う!?」
「ふふっ、多分それ私の担当の先生だと思う。あの人すごいスパルタだよね?」
「え!?奈々美ちゃんの担当の先生だったの!?」
「うん、多分そうだと思う。もうね、あの先生は諦めた方がいいよ」
止まることのなさそうな美優ちゃんの愚痴に付き合っているうちに、胸の奥の黒いものは段々と薄くなっていくような気がした。