「ほら、無理は禁物って言ったでしょ」
「はーい」
まだ自分の足で立っていられる時間はそう長くない。
車椅子に戻り、そこから再び景色を眺め、そのままゆっくりと目を閉じた。
視界が暗くなるだけで、感じ方は全く変わる。
鳥の囀りと、子どもたちのはしゃぐ声。高齢のおじいさんとおばあさんがベンチでおしゃべりしている声。
そしてふと、すぐ近くから聞こえてきた会話。
「ごめんね。明日はお母さん、お仕事で行かないといけないから、ここには来られないの」
「えぇ!どうして!?」
「ごめんね。代わりにおばあちゃんが来てくれるからね」
「やだ!ママがいい!ママと一緒にいたいよ!」
「うん……。ごめんね。明後日また来るから」
それは、まだ幼いであろう男の子とその母親らしき女性の会話。
それを聞いた時。
頭を何かで殴られたかのような強烈な痛みが、頭の内側を駆け抜けた。
"行かないで!お母さん!お父さん!"
"わたしを置いて行かないでよ!"
痛みと共に頭の中に聞こえてきた声。それは夢で見た時のあの少女の声だった。