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「風が気持ちいいね」


「うん。でも立花さん、本当に良かったの?忙しいんじゃない?」


「大丈夫よ。気にしないで」



数週間が経過したある日。


私は立花さんに連れられて、あの中庭に来ていた。


龍之介くんも行くと言ってくれたけれど、そうすると美優ちゃんが一人ぼっちになってしまうから今回は遠慮した。


あれ以来、美優ちゃんはどこか焦ったようにペンを走らせている。


"俺がそれとなく聞いてみる"と言っていた龍之介くん。


私がいると話しにくいこともあるだろう。少しでも美優ちゃんの心が落ち着くといいのだけれど。




中庭の、あのフェンス越しに着いた私は、立花さんに支えてもらいながらゆっくりと車椅子から立ち上がる。


リハビリが進み、自分の足で立ち上がることができるようになった。


歩く練習も少しずつ始まっており、あとは骨がしっかりとくっ付いてくれれば退院できそうだ。


もう少しで、外の世界に出られる。


その前に少しでも多く記憶についての手がかりが欲しくて、今日はここに来ていた。


自分の足で立ち上がり、外を見渡す。


いつもより高い視界。そんな些細なことが、とても嬉しい。


生憎今日は風があまり強くないようだ。前のように何かを思い出すことは無いかもしれない。


白い雲が浮かぶ大空を眺めてみたり、フェンス越しに下を覗いてみたり。


記憶の手がかりを探すというよりは、純粋に外の空気を楽しく味わってしまっている。