「誕生日とか、年齢とか。覚えてる?」



私を刺激しないように、ゆっくりと視線を合わせてから聞いてくれる。


一つ一つ考えるものの、やっぱりわからない。


思い出そうとすると、頭が真っ白になってしまう。


私が視線を逸らさないまま何も喋らないのを見て悟ったのか、お医者さんは困ったような顔をした。



「……事故の衝撃で、なのかな」



慌ただしく動く看護師さんとお医者さんの表情を見て、私が今"記憶喪失"とやらになっていることに気が付いた。


自分が誰なのかわからない。どうして入院しているのかがわからない。


自分の身に何が起こったのか、わからない。



漠然とした恐怖が、私の全身を包み込んだ。


恐怖を感じると、思い出したかのように再び身体の節々が痛み出した。


考えれば考えるほど、こめかみから頭全体がズキズキと痛む。


それに思わず顔を歪めた。



「どちらにしても、今日はもう何も考えないほうがいい。身体に負担がかかりすぎてるから、一度寝るといいよ」



痛みから逃れたくて、無意識のうちにそれに頷くと、私はそのままゆっくりと目を閉じて意識を手放した。