私は龍之介くんからノートを受け取り、パラパラとページを捲る。
「……思い出したいよ」
「……っ奈々美」
「だって、怖いから。何も知らないことの方が、私は怖いから」
ノートに、ポタリと雫が落ちた。
それは次第に一つ、二つ、とシミを作っていく。
「確かに、つらい記憶ばっかりかもしれない。苦しくて、忘れたい記憶ばっかりかもしれない。……だけど、それだけじゃないはずでしょ?家族との大切な記憶も、友達との大切な記憶も。たくさんあるはず。もしその中に幸せな記憶が一つでもあるのなら、私はそれを諦めたくない。ちゃんと思い出したいよ」
全てを思い出した時に、東海林先生の言う通り、私は受け止め切れないかもしれない。
思い出したことを、酷く後悔するかもしれない。
だからって、それを恐れていては何も始まらないから。
「……ごめん、奈々美。俺が無神経だった」
ポンと頭を撫でる手に、必死で首を横に振って否定する。
「力になるって言ったのは俺なのにな。本当ごめん」
「……っ、龍之介くんが謝る必要無いよ。私の方がごめんね。心配してくれてるのに強情で」
「気にすんな。奈々美は悪くない」
龍之介くんはそのまま私の頭を撫でてくれて、次第にその温かさに泣き始めた私の体をそっと引き寄せて、ふわりと抱きしめてくれた。
静かに涙を流す私が落ち着くまで、ずっと寄り添ってくれていた。