「ちょっと身体触るよ?」
ここは痛む?こっちは?
と、優しく腕や足、お腹などの痛みをチェックされ、その度に頷いたり首を振ったり。
それに笑顔を返してくれた。
そして。
「一度にいろいろと検査すると疲れちゃうだろうから、明日から詳しい検査をしましょう。今日はこのままゆっくり休んで」
そっと微笑んで病室を出て行こうとするお医者さんに、聞きたいことがあって
「……あ、の」
と呼び止める。
ガサガサの声でも、お医者さんは振り向いてくれた。
「どうかしたかい?親御さんなら───」
声が出しにくくて、ひとつ咳払いをする。
「あの。……キリ、ガヤ……さんっ、て……わたしの、こと……ですか?」
遮るように、言葉を発する。
"キリガヤさん"ってずっと呼ばれていたけれど、それって誰だろう。
私のこと?私がキリガヤ?
……あれ?私……誰?キリガヤ?誰?
言葉にすると、余計に頭の中で"キリガヤ"という単語がぐるぐる回る。次第に脳が追いつかなくなって混乱してきた。
私は誰で、どうしてここにいるの?
あなた達は、どうして私のことを"キリガヤさん"って呼ぶの?
それが、私の名前なの?
「……自分の名前は、わかるかい?」
じっとお医者さんの目を見つめるものの、何も分からなくてゆっくりと首を横に振る。
するとお医者さんは看護師さんに何かを告げて、その看護師さんは急いで病室を出て行ってしまった。