「確かに奈々美ちゃんの立場だったら、自分が何も覚えていないのはとても怖いことだと思う。憶測でしかないけれど、私なら奈々美ちゃんほど冷静でいられないと思う」


「……」


「でも、だからって自らを危険に晒してまで思い出そうとするなんて、私はそれが正しいとは思えない」



きっと、何が正解なのかは誰にもわからない。


だから、私の思いも間違いではないし、立花さんのその意見も間違いではない。



「けど、東海林先生の言う通り、奈々美ちゃんの心の中は誰にもわからないし、当事者にしかわからない葛藤や苦しさがある。どう足掻いたって私にはそれが本当の意味では理解できないし、共感することは難しい」



東海林先生も立花さんも、私のことを思っての言葉だとわかるから、私もそれは素直に受け止められる。


でもそれがわかるからこそ、私は"自分がとんでもないわがままを言っている"ということもちゃんと理解しているつもりだ。



「だからこそ、私はそんな奈々美ちゃんのような患者さんの力になりたい」


「……立花さん」


「……私が言いたいのは一つだけ。記憶に関することは、私が付き添いする。他の看護師じゃなくて、私が一緒に行ける時だけにして」



その言葉に、正面を向いていた顔を思わず後ろに勢い良く向けた。