「……まぁ確かに、当事者じゃないとわからない気持ちもある。それは私たちにはどう足掻いても理解できない感情だ。君がどうしても思い出したいと言うのなら、私たちにはそれを止める権利は無い」
「……先生」
「でも、だからって安易に許可はできない」
「……」
そう言った東海林先生は、いくつか私に条件を提示した。
体調を一番に考えて、無理はしないこと。
必ず一人で行かないこと。できれば看護師を連れて行くこと。
何か特別なことや変わったことがあれば、すぐに東海林先生に報告すること。
記憶を取り戻すことだけに囚われずに、リハビリもしっかりと行うこと。
思い出せなくても、焦らないこと。
カウンセリングを定期的に受けること。
「まぁ、これでもかなり厳選してるから、他にも言いたいことは山ほどあるけど。どうも君に言っても無駄なようだから、それくらいにしておくよ」
「……ありがとうございます」
東海林先生にお礼を告げると、降参するかのように両手を上げながら微笑んだ。その表情に私も思わず笑ってしまう。
立花さんに車椅子を押してもらいながら病室に向かう道中、
「東海林先生はああ言ってたけど、私はあまり賛成できない」
と、複雑そうな声が聞こえた。
お互いに同じ方向を向いているからその表情は見えないけれど、きっと立花さんはなんとも言えない顔をしていると思う。
だって、私が今そんな顔をしているから。