「失礼しまーす」



鈴の鳴るような、凛とした綺麗な声と共に視界に入ってきたのは、看護師の女性。二十代くらいだろうか、声と同じく凛としていてキリッとした顔の美人さん。


患者が目を覚ましたことになど全く気が付いていないのか、その看護師さんは機械の調子を見たり点滴の残量を確認したり、無言で仕事をしていた。


それを黙って見つめた。パソコンにデータを打ち込む音だけが、しばらく病室に響いていた。


そのうちどこかからの視線を感じたのだろうか、ふと看護師さんがこちらを向く。


そして視線が交わった瞬間、その目は大きく見開かれた。



「……桐ヶ谷(キリガヤ)さん?桐ヶ谷さん!?聞こえますか!?」



肩をトン、と叩いて呼びかけてきた声に、言葉の代わりに頷いて返事をすると看護師さんは慌ててナースコールを押した。



「桐ヶ谷さん、意識戻りました」



そう告げて、



「すぐに先生がいらっしゃるので、少し待っててくださいね」



ふわりと笑った後に忙しそうに動き始めた。


言葉通りすぐにやってきたお医者さんは、初老の男性医師。


"東海林(ショウジ)"と記載されたネームが胸に掛かっていた。



「私の顔が見えるかな?」



コクリ。頷くと安心させるように優しい笑顔になる。



「自分の身に何があったか覚えているかな?」



ゆっくりと聞いてくる声は、まるで水のように全身に優しく染み込んでくる。


自分の身に、何があったのか。


そういえば、どうして入院しているのだろうか。


首を横に振ると、お医者さんは



「大怪我だったからね。覚えていないのも無理は無いか。でも命に別状が無くて良かったよ」



とパソコンに何やら打ち込んでいく。