「首の傷は……検査前にガーゼ交換しておこうか」
治り切らない手で喉を掻きむしっていたようで、首元には大きなガーゼが付いていた。
「はい」
そんな会話をして、診察室を出た。
車椅子を押してくれる立花さんとは特に会話が無いまま、病室へ向かう。
昨日脳内で見て感じたあの出来事。あれはきっと、私の忘れている記憶の一部だ。
きっと、こんな怪我をした事故に遭った時のもの。だって、血の海だったし救急車のサイレンの音がうるさかったから。
轟音もしていた。何かにぶつかったような音もしていた。そして息ができなくなるほどの衝撃と痛み。今思い出しても全身が震えてくるようだ。
やっぱり交通事故にでも巻き込まれてしまったのだろう。
……ああいうのを、フラッシュバックと言うのだろうか。
「奈々美ちゃん」
「……ん?」
「無理に思い出そうとするのはダメよ。こういうのは、焦ると身体に負担が大きいの」
「はい。……でも、やっぱり気になっちゃって」
「無理もないわ。でも、だからこそゆっくり、焦らずね」
立花さんの言葉に、前を向いたまま頷いた。
午後からの検査の前に、龍之介くんが病室に来てくれた。