ブワァ、と。目を開けていられないほどの強い風。


それは私の前髪をさらい、視界が大きく開ける。


ほんの一瞬のこと。私はその風の中で何故か目を開けて。


そうして、次の瞬間にその目を大きく見開いた。



「あっ……」





───急に、息が止まったような気がした。





頭の中に駆け巡る、何か。


耳から脳へ響く、轟音。


突き刺すような痛み。


耳をつんざくような、女性の叫び声。


残酷なほどに鮮やかな、一面の赤。


救急車のサイレンの音。



「あ……やだ……」


「……奈々美?」


「いっ……痛い……やだ、やだ」


「奈々美?どうした?どっか痛むのか?」


「や、だ……痛いっ、っ!」


「おい、奈々美!?」



頭が、割れるように痛い。


聞こえるはずのない救急車のサイレンが何故か脳内で響き渡る。


全身がガタガタと震えて止まらない。




……怖い。苦しい。怖い。




視界が真っ赤に染まり、呼吸が苦しくなる。


無意識に喉に右手を動かした。


治りきっていない手を無理矢理動かしたものだから、その痛みも上乗せされるものの今は呼吸の苦しさと頭痛の方が酷くて全く気にならない。