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「そろそろ翼も帰っただろうし、俺らも戻るか」
「うん。楽しかった。良い気分転換になったよ」
「……ここでいいなら、また今度連れてきてやるよ」
「本当!?やった。嬉しい」
「……二人だけで行ったら美優が怒るから、アイツに客来てる時だけな」
「うん。わかった」
当たり前だけど、龍之介くん一人じゃ車椅子二台は押せない。
立花さんに頼めば私の車椅子を押してくれるだろうけれど、忙しい看護師さんを拘束するわけにはいかない。
もちろんそれは龍之介くんにも言えることだから、頻繁には来られないだろうけれど。
「リハビリ頑張って、早く治そう」
そうしたら、歩いて来られるし。
龍之介くんの手も煩わせずに来られる。
「……そうだな」
頷きながら立ち上がって私の車椅子を押してくれる龍之介くんに、
「ね、戻る前にあっちの方も見てみたい」
とフェンスの方を指差す。
「フェンスあるし車椅子じゃあんまり景色見えないと思うけど」
「うん、いいの。ちょっとだけ。お願い」
「わかった」
ゆっくりと前進する車椅子。
フェンスに近付いていくと、何故だか胸が高鳴るような、そんな気がした。
頰を撫でる風が心地良い。
それに目を細めながらフェンスの向こうに視線をやっていると、
「きゃっ……」
突然、正面から強い風が吹いた。