龍之介くんは毎日漫画や本を持ってきているから一人で病室を出てどこかで時間を潰すこともできたのに。わざわざ私を車椅子に乗せるのを手伝ってまで散歩と称して連れ出してくれた。
美優ちゃんの恋を応援しているのだろう。
きっと、龍之介くんのこういう優しさを知っているから、美優ちゃんもあんなにお兄ちゃんに懐いているんだ。
「大丈夫か?風強いけど寒くない?」
「うん。大丈夫」
さりげなくそうやって気にかけてくれる辺りも、優しい。
特に会話もないまま、ボーッと風を浴びつつ周りの患者さんたちを眺める。
小児科病棟の子どもたちだろうか、病衣を身に纏っている数人の小さな姿に、胸が痛む。
あんな小さいうちから入院している子もいるんだ。
他にも車椅子から降りられない子どももいる。その母親だろうか、隣で花壇の鮮やかなお花を指差しながら一緒に見ている背中もある。笑い声は聞こえてくるのに、その背中が泣いているように見えた。
その近くでボール遊びをしている子をぼんやりと見ていると、急にそのボールが花壇に跳ねてこちらに飛んできた。
その軌道は私の身体に向かっていて。
あ、避けられない。
そう思って目をぎゅっと閉じる。