話を聞くに、美優ちゃんは近くの中学校で陸上部に所属しているらしく、一週間ちょっと前の練習帰りに交通事故に遭ってしまったらしい。


全身の打撲と手の指と足の骨折。特に足の骨折が少しややこしいらしく、リハビリに時間がかかりそうだと言っていた。



「入院患者の割には日焼けしすぎてて、恥ずかしいんだけどね」


「そんなことないよ。それだけ頑張って練習してたってことだもん」


「へへっ、ありがとう奈々美ちゃん」



美優ちゃんは、大怪我をして入院しているとは思えないほどに明るく笑っていた。


しかし陸上部と言っていた。その笑顔の裏に、きっと計り知れないほどの涙があったのだろう。そう思うと素直に笑顔を返せない。


しばらく二人で探り探り会話をしていると、病室のドアが控えめにノックされた。



「失礼しまー……す、あ、美優」


「お兄ちゃん!」


「ほら、着替え。母さんが持ってけって」


「もぅ、お母さんまたお兄ちゃんに押し付けたの!?やめてって言ったのに」


「母さんは仕事なんだから仕方ねぇだろ。それに別にお前の服やらパンツになんて興味ねぇよ。お前が入院してからは洗濯してんのも干してんのも俺なんだし」


「そういう問題じゃないの!」



入ってきたのはどうやら美優ちゃんのお兄さんらしい。


細くて背の高い男の子。


少し長めの黒いマッシュヘアとその奥に見えるのは美優ちゃんと同じぱっちりとした二重。彼も黒目が澄んでいてとても綺麗だ。


面倒臭そうに美優ちゃんに荷物を渡すかっこいい男の子。それが第一印象。


ベッドのカーテンを開けていたから、当たり前のように彼と目が合ってしまった。