病院の食事は薄味ばかりでなかなかおいしいと思えなかったけれど、このカレーライスはたまねぎの甘味がたっぷりでとってもおいしい。


初めてここのカレーライスを食べた時に思った。



"甘口で良かった。辛いの苦手だし"



それは、ここに来る前の私の記憶だろう。


記憶喪失になってから自分のことを思い出したのはそれが初めてだったため、嬉しくてそれからこのカレーライスを食べるのが楽しみになっていた。


どうやら私は右利きらしく、左手で食べるのはなかなか難しいもののどうにか食べ終える。


その後は特にすることもないため、部屋についているテレビを見て時間を潰す。


お笑い番組を見ても、面白いとは思うけれどそこに出ている芸人さんのことは特に知らない。


もしかしたらあまりテレビを見ない生活をしていたのだろうか。ドラマや情報番組を見ても、特に知っている出演者はいなかった。


事故に遭うまでの私は一体どんな生活をしていて、どんな人間だったのだろう。


目を閉じてみると、なんだか闇の向こうにうっすらと見えるような気がするのに、何も思い出せない。