「奈々美ちゃんはとっても優しくて、ご両親想いで。弱くなんてなかった。むしろ、とっても強かった」
「強かった……?」
「そう。奈々美ちゃんは一人で全部抱え込んで、自分が耐えればいいって思い込んで。そうすれば我慢できてしまった。耐えられてしまった」
「……だって、それ以外の方法が浮かばなかった」
「そう。あなたはまだ子どもだったから、どうすることもできなかった。ご両親に言っても無駄だって教え込まれた。それは一種の洗脳状態だから」
「……」
「だから奈々美ちゃんはもっと強くなろうとした。人に頼る方法も、甘える方法もあまり知らなかったから」
「……そう、かも」
両親がいないことの方が多かったから、自分で立つしかなかった。たまに帰ってくる二人に心配をかけたくなくて、笑顔でいることしかできなかった。
私は両親の存在に甘えてると思っていたけれど、それは本当の意味では甘えていなかったのではないか。
「感情を殺してはいけない。言ったでしょう?」
私は、誰にも頼らず誰にも甘えることなく、自分の感情を押し殺していた。
向き合うことを恐れて、自ら放棄した。
「……頑張ったね、奈々美ちゃん」
「え?」
「頑張りすぎちゃったね。奈々美ちゃん」
中原さんの言葉が、心にスッと染み込んできた。
「もう、そんなに頑張らなくていいんだよ」
「っ……はいっ」
じわりと滲んだ涙を袖で拭う。すると
「っ奈々美……奈々美っ!」
お母さんが、耐えきれないとばかりに私を思い切り抱きしめる。
「お母さん。ごめんね。心配かけないように、迷惑かけないようにって思ってたのに。一番酷い方法で心配かけちゃった」
「謝るのは私の方なの。自分の仕事を優先してしまって、あなたと一緒の生活を蔑ろにしてしまった。お母さんが悪いのよ。奈々美は何も悪くない。だからもう謝らないで……」
「お母さん……ありがとう」
記憶よりも小さく感じるその背中に手を回す。
優しいお母さんの香りは、何よりも安心できた。