「……そうして目が覚めたら、記憶を失っていた。私はあの日、弱い自分と決別するために飛び降りたの。交通事故なんかじゃなかった。あれは、私が自ら命を絶とうと思ってしたことだったの」
そう言った奈々美は、痛々しいくらいに下手くそな笑顔を向けた。
そんな笑顔は見たくなくて、その華奢な身体をもう一度強く抱きしめる。
そして少しでも安心させられるように、背中をトントンと優しく叩いた。
「……知ってたよ」
「……え?」
「奈々美が、事故とかじゃなくて自分から飛び降りたってこと。俺は知ってた」
「何で……?」
俺の腕の中から見上げてくる奈々美の視線。
不安と驚きが混ざったその表情に、俺は笑顔を向ける。
怖がらなくていいよ。不安がらなくていいよ。もう大丈夫だから、安心していいんだよ。
そう伝えたくて、頭を撫でる。
「半年前。俺の学校で噂が流れたんだ」
「噂?」
「一つ上の女子の先輩が、飛び降り自殺をしようとしたって」
「それって……」
驚きに目を見開く奈々美に、ポケットから出した学生証を見せる。
私立白河高等学校と書かれたこれは、おそらく奈々美が持っているものと個人情報が違うだけで同じものだ。