自ら身を投げる人はその瞬間、一体何を思うのだろう。
恐怖?絶望?安堵?
それは人それぞれだろう。
眼下を歩く人々。行き交う車。
おもちゃのようなそれらを見て、わたしはこう思う。
"弱いわたし、さようなら"
何も言えないわたし、さようなら。
弱くて何もできないわたし、さようなら。
もし、もしも。生まれ変わることができるなら。
────来世では、もっと強い人になりたい。
その瞬間、わたしの身体は屋上から宙を舞い。
心臓が持ち上がるような不快な浮遊感の中、強烈な空気の抵抗を受けながら目を見開くと真っ逆さまに落ちて行く身体。
近付く木々の先にあるコンクリート。わたしはそれに受け身を取ることもせずに、そっと目を閉じて。
辺り一面に響く轟音。
全身を襲う、言葉にならないほどの痛み。
動かない身体。上手くできない呼吸。
ほんのわずかに開いた目に見えたのは、鮮やかな赤い海。
……夕焼けで、海が真っ赤に染まってるんだ。すごい、綺麗だなあ。
朦朧とする意識の中では、その血溜まりは海に見えた。
綺麗な夕焼けが映った、大きな海に見えた。
それが幻覚だと認識する余裕もない。
響く女性のつんざくような悲鳴と救急車のサイレンの音。それが煩わしくて。
うるさいなあ。綺麗な海が、見られないじゃないか。
自然と上がった口角。
その瞬間を最後に、わたしはぷつりと意識を手放したのだった。