「なにボーッとしてるの!?さっさとやることやんなさい!あんたが無駄に騒がせてくれたおかげでこっちは大変だったんだから!早く終わらせてよね!」
「っ、でも、何を……」
「はぁ!?いつもやってることでしょ!?まさかまだ記憶喪失のフリしてるわけ?いい加減やめなさいよ。ただでさえあんたが飛び降りて私まで疑われたってのに……」
「…………え?」
「とにかくさっさと終わらせて!私はあっちで休んでるから!それまでは勝手に出ていくんじゃないよ!」
バタンと音を立てて閉められたドア。
私は一人、リビングで膝から崩れ落ちる。
……なに?私が何をしたって?
「……飛び、降りた?」
誰が?私が?どこから?なんで?
おばさんは……一体何を言ってるの?
目の前に、じわりじわりと黒いモヤがかかる。
それは次第に私の視界を奪い、私の全身を闇に包み込む。
視界が真っ黒に染まった頃、頭の中に一つの映像が飛び込んできた。
夕焼けで綺麗なオレンジ色に染まる空の下。
手に掴むフェンスを乗り越えて、わずかな隙間に足を乗せる。
制服のスカートが、強風でふわりと膨らんだ。
眼下に広がる景色を目に焼き付けるようにして。
───そして。
ぞわり。
心臓が持ち上がるような浮遊感と共に、落ちていく身体。
それが全てスローモーションに感じた瞬間。
「……ハッ……!?」
一気に意識が戻り、視界が徐々に開け始める。