「むしろ、大切なのは患者自身じゃなくて周りの人の支えや環境。トラウマの元から解放されたらスッと記憶を取り戻す人もいるらしいから。今度の引っ越しで何か思い出すといいわね」



中原さんはそのまま予定の時間をオーバーする勢いで私の相談に乗ってくれた。



「もし、今後何かの拍子で記憶を取り戻した時にはね?まずは周りに甘えること。親でも友達でも。信頼できる人に思い切り甘えて、頼るの。いい?」



龍之介くんも、誰かに甘えろって言ってたなあ。


そう思って



「はい」



と頷く。



「感情を押し殺そうとしてはダメよ。つらかったら誰かの胸に縋ってもいい。苦しかったらその場から逃げてもいい。悲しかったら思い切り泣いてもいい。しっかりと向き合って、受け入れるの。それが、過去を乗り越えるということ。あなたが強くなる方法よ」






カウンセリングが終わった後、美優ちゃんの病室に行くと検査中だったらしく誰もいなかった。


ここで戻ってくるのを待ってようかとも思ったものの、お母さんも心配しているだろうから、会わずに帰ることに。


病室を出て、一応立花さんに挨拶しようかとナースステーションを見に行く。


しかし立花さんもいなくて、他の看護師さんに聞いてみると今日は夜勤明けで帰ったと言われた。それなら仕方がない。


龍之介くんは今日は用事があるらしくそれが終わり次第行くと言っていた。待っててもいいけど、気を遣わせてしまうかもしれない。


そのまま病院を出ようかと思ったものの、久しぶりに中庭に行ってみようか、と一人でエレベーターに乗った。