「……私、いつになったら全部思い出すんだろう」



不意にため息のように溢れた声は、龍之介くんの耳にも届いていた。



「いつも言ってるだろ?焦るなって。焦ったっていいことねぇよ」


「うん。それはわかってる。頭ではわかってるけど、やっぱりどうしてももやもやして、早く思い出したいって。気持ちばっかり焦っちゃう」



龍之介くんも美優ちゃんも、東海林先生も立花さんも。もちろんお父さんとお母さんも。

皆、私に焦らないようにと言ってくれる。


でも、本当に思い出せるのだろうか。


もし、このまま何も思い出さなかったら?


過去の自分を思い出せないまま、これからの長い人生を生きていかないといけなくなったら?


……そんなの、苦しすぎる。



「でも、怖がってるうちはきっと思い出したところで、その過去に喰われるぞ」



"過去に喰われる"



その通りだと、大きく頷いた。


結局は、自分が強くなるしかないのだ。


おばさんを怖いと思う感情にも、もちろん理由があるはずで。


心に根付いてしまっているはずの、その理由に。


私は、自分自身の力で、打ち勝たないといけない。


そうしないと、いくら記憶を取り戻しても今度は潰されてしまう。喰われてしまう。