「こんにちは。ご無沙汰しております」
お父さんの軽快なのにドスの効いた声に、私はお母さんと一緒におばさんから姿が見えないところで待機する。
「あ、え、っと……ご主人、本当に久しぶりねぇ。日本に帰ってらしたのね。お元気そうでなりよりです」
「えぇ、おかげさまで。その節は娘が大変お世話になりました。……それで、今日はうちには何の御用で?」
「え、あぁ。あの、奈々美ちゃんが退院したって聞いたのでね、快気祝いに手料理でもご馳走しようかと思ったんですけどね、毎日留守のようだから」
「だからって大声で叫んだりドアを何度もあんなに強く叩いたりしますかね普通」
「いや……えぇっと……」
だんだんとしどろもどろになっていくおばさんは、適当な理由をつけて今日は帰って行った。
去り際に、
「近いうちに今まで娘を預かってくださったお礼に伺いたいのですが、ご都合悪い日はありますか?」
とお父さんが声をかけた時に
「いやいいのよ!私も好きでやってたことだから!お礼なんて全然!気にしないで!」
と捨て台詞のように吐き捨てていったのが印象的だった。
「奈々美」
「……」
「これからは、どんな些細なことでもお父さんとお母さんに教えてくれ。一人で抱え込まないでくれ」
「うん。わかった」
その日の夜に両親は何かを話し合っていたようだったけれど、両親の雰囲気がとてもピリピリしていて私が聞いてはいけないことだと思って部屋に篭っていた。