「……立花さん」
今日も、点滴の調子を見ている立花さんに話しかける。
「どうしたの?」
向けられた笑顔とは対称的に、私の眉は八の字になっていることだろう。
「私って、家族とかいないのかな」
「……どうして?」
「だって、目が覚めてから何日も経ったのに学校の先生以外誰もお見舞い来ないから」
病室はまだ大部屋ではなく個室だ。確かに検査で忙しかったけれど、目が覚めてから今まで私に会いにきたのは担任の教師だと言う女性だけだった。
当然私は覚えていないから担任だと言われてもわからなくて、
"私記憶喪失になってしまったみたいなので、先生……のこと、わからなくて"
と告げると、目に涙を浮かべながら、
"気にしないで。桐ヶ谷さんが生きててくれて良かった"
と笑ってくれた。
その先生以外は、家族ですら来てくれていない。
家族がいるのなら、目が覚めたと聞けば普通はお見舞いに来るものなのではないだろうか。
そう思って聞くと、立花さんは困ったような顔をした。
「……奈々美ちゃんのご両親はね、今お仕事で海外にいるみたいで、すぐには帰ってこられないんですって」
「海外?」
「うん。奈々美ちゃんは一人っ子で親戚の方も飛行機の距離なんですって。だからあまり来られないみたい」
「……そう、なんだ……」
両親のことを聞いて、なんだか胸の奥が少しざわついた。
仕事で海外から帰って来られない両親。一人っ子。親戚も近くにいない。
私って、ここに入院する前まで、一体どんな生活を送っていたのだろうか。
自分から聞いたのに、それ以上は聞くのが怖くて口を閉ざす。