「おかあさん!」
「ただいま奈々美」
「おかえりなさい」
「……本当にありがとうございました。何か娘がご迷惑をおかけしませんでしたか……?」
「大丈夫よ。とーってもいい子だったわ。こっちが心配になるくらいに聞き分けが良くて。びっくりしちゃった」
帰ってきたお母さんに抱きつく私と、そんな私の頭を撫でるおばさんのしわしわの手。
「おばさんとね!いーっぱいおりがみしたの!あとね、おえかきと、ねんどと、しゃぼんだま!」
「まぁ、そんなにたくさん!」
「あとでおかあさんに、しゅりけんつくってあげるね!」
「ありがとう奈々美。楽しみにしてるわ。……本当に、ありがとうございました」
何度もおばさんにお礼を告げるお母さんと、お母さんから離れたくなくてずっとくっついている私。
……そうだ。私は定期的に、あのおばさんの家に預けられていた。
お父さんはこの時から海外出張が増えて。
お母さんも仕事が忙しく帰ってこられない日や地方へ向かうことが増えて。
そのたびに、私はおばさんの家に預けられていた。
最初は良かったんだ。けれど、途中から私はそれが嫌で嫌でたまらなくて。
「おかあさん、つぎにとおくにいくときは、わたしもつれてって!」
そう何度も懇願した。
しかし、
「ごめんね。一緒に行きたいのは山々なんだけど、お仕事だから連れて行けないのよ。それに向こうはとても危ないところなの」
日本でも、海外でも。見知らぬ土地にまだ幼い子どもを連れて行くことはとても危険で怖いことだろう。
当たり前のことなのに、当時の私には何も分からなくて。
置いて行かれる。そればかり考えていたんだ───