「学校の子たちが来てくれるのももちろん嬉しいし、翼が来てくれるのももちろん嬉しい。でもやっぱり私は奈々美ちゃんともお話ししたい。お兄ちゃん、奈々美ちゃんと連絡取れる?」
美優の不安そうに揺れる目に
「わかった。もう一度連絡してみるよ」
と答えながらも、実は俺も漠然とした嫌な予感がしていた。どうせまだ暗くなるまで時間はある。この後奈々美の元を訪ねてみようかと決意した。
美優の病室を出て、以前美優が手紙を出したいからと聞いていた住所に向かう。
思っていたよりも病院から近かった住宅街で、何か大きな音が聞こえて恐る恐る進むと、広い庭の向こうにある一軒の家のドアを何度も叩いている女がいた。
「奈々美ちゃん!いるのはわかってるのよ!開けなさい!開けなさいってば!」
奈々美?
聞き慣れた名前に、その敷地の前にある表札を確認した。
桐ヶ谷と書かれたそれを見て、慌てて玄関へ向かう。
「奈々美ちゃん!?」
「あの」
「っ!?誰!?」
声をかけると、慌てたように振り向いたその女は俺の顔を見て数歩後ろに下がる。
「この家に何か用ですか?」
「あんたには関係ないでしょ!?私はねぇ!この家の娘に用があるの!」
「でも、そんな大声出してドア叩いてたら怪しいし十分不審者ですよ。警察呼びますね」
「なっ……!?」
スマートフォンを取り出して通報する素振りを見せると、その女は慌てて俺を押してその場から逃げていく。