それから数日の間は、検査して休んでの連続だった。


脳に異常が無いかを改めて確認するために、脳波の検査やMRIにと忙しい日々。


そんな日々の中で少しでも入院前のことを思い出すかと思いきや、真白な頭の中が何かで色付くことは無く。特に何も変わらなかった。


数日後に出た検査結果によると特に脳に損傷は見られなかった。


事故での外傷はきっかけにはなった可能性があるものの、どちらかというとそれ自体が原因では無いらしく心因的なものらしい。


解離性健忘(カイリセイケンボウ)】じゃないかと診断された。


難しいことはよくわからないものの、自分の名前や生い立ちすらも忘れてしまうこと。それが私の病名らしい。


診断書を見ても、あまり現実味が無かった。


その後も担当医である東海林先生に"桐ヶ谷さん"と呼ばれても、立花さんに"奈々美ちゃん"と呼ばれても、


それが自分の名前なのだと認識したから返事はできるものの、頭の中でしっくりきているわけではなかった。


学生証も何度も見た。まじまじと見つめた顔写真と、立花さんに見せてもらった鏡に写る自分の顔。



染めたことのない黒髪ロング。前髪がぱっつんでその下にある二重の目。意識が無かったからか、頬はこけてどこか青白い。顔写真も今の顔ほどではないけれど、顔色が悪いように見えた。


頬の傷を抜いても写真と実物がなんだか少し違うような気もして、写真写りが悪いのかと首を傾げた日もある。


そんな風に過ごす中で、毎日自分に対する疑問は絶えず湧き出てくる。


そのたびに立花さんに声をかけていた。