夢にまでみたドームでのライブ。
これ以上に幸せな事を私は知らない。
数え切れないほどの人。
色とりどりのサイリウム。
会場を埋め尽くす程の歓声と掛け声。
それらを一身にこの身で受けている。
私はやはりこれ以上に幸せなことを知らない。
だけど、私は欲張りだから1番大切な人に今の私を見て欲しいと思ってしまう。
いいよね…今日くらい…我儘言っても…。
こんなに人が居たら誰が誰だか分からないから、不安になっちゃうんだもの。
『せんせい…見てるかな…』
すると、どこからかせんせいの声が聞こえた。
「見てるよ………………」
それ以外の声は観客の歓声によってかき消されてしまった。
でも、それで十分だった。
せんせい…ちゃんと約束守ってくれたんだ…。
ドームのステージに立ち、せんせいに見守られている。
この瞬間が1番……
『あぁ…幸せだな…』
俺が担当の患者には小さな女の子がいた。
俺の姪よりも小さい小学生。
その子はアイドルを目指していた。
『いつかここを退院してアイドルになってドームで歌うんだ!』
と毎日のように言っていた。
それがあの子の夢だった。
そして、その子の夢の話の最後にはいつもこう付け加えられる。
『私がアイドルになったらせんせい、私のことちゃんと見に来てよ!』
現実になることを祈っていたがその子は
不治の病にかかりいつ亡くなってもおかしくない。
だから今は。少なくとも今だけは、幸せに過ごして欲しい。
だから、私はいつも決まって
「絶対に見に行く。なにがあってもだ。」
と、毎回強く言い聞かせるように言った。
そういうと彼女は満面のひまわりのような笑顔で笑うから。
だが、ある日その子の体調が急変した。
慌ただしい看護師の足音。急いで運ばれるベットの車輪の音。少女に声をかけ続ける両親の声。
手術室に呼ばれてから一目見た瞬間にわかってしまった。
もう助からない。
目はおろか、もう耳すらまともに機能していないだろう。
絶望しているとベットに乗った彼女が弱々しく口にした。
『せんせい…見てるかな…』
息を飲んだ。
この子はきっと夢を叶えてるんだ。
ずっと、ずっとずっと願い続けてきたたった一つの大きな夢を。
きっと今彼女は多くの人から歓声を受けてステージ立っている。
私は彼女の小さくて痩せこけた手を握った。
「見てるよ…お前は夢を叶えたんだ…なにがあってもお前に会いに行くって…言っただろ…」
その瞬間彼女の口角が少しだけ持ち上がる。
『あぁ、幸せ…』
私はその日はもう泣き止むことができなかった。
母さんへ
私はこの船に乗れて光栄に思っています。
私が家を出発した日の事を覚えてしますか?
母さんが手作りのお守りを私にくれた時とてもうれしかったのです。
あの日の夕飯の食卓が私の好きな物で埋め尽くされていた時は涙が出そうになりました。
きっと私はこの国で1番の幸せ者です。
この船に乗れて。
母がこれほどまでに私を愛してくれていて。
私はとても幸せでした。
今までありがとうございました。
私はきっと、もう、動かぬ手でこのお守りを握りしめたまま見つかることでしょう。
さようなら。みんな。
さようなら。あなたに届くことの無い深海行きこの手紙。
私の好きな人はとてもクールでイケメン。
自分に近寄ってきた女子たちを冷たい言葉で突き放すことで有名な棘のある王子様みたいな人。
例えるなら……そう、青色の薔薇みたい。
皮肉なことに青い薔薇の花言葉は「不可能」らしい。
この恋は縁がなかったのかも。
卒業式が終わり昨夜、あれだけ考えた告白の言葉もわたしがつけた勝手な理由でこの世から消え去ろうとしていた時、ふと、後ろから彼に声をかけられた……
その後、私は青い薔薇の花言葉は「夢かなう」に変わったことを知った。
買い物袋がいつもより重かった。
吐いた息は白く、そこらの家から暖かな光が漏れだしているこの冬。
今日から彼との同棲が始まったからだ。
「はぁ」と白い息をはきだす。
空気は乾燥し、酷く寒いから鼻は赤に染まり、顔をマフラーに埋めた。
私の左側を歩く彼は私の方を見て、「持ち手、片方持たして」と言ってくれた。
いつもより買い物袋は重かった。けれど、いつもより私の心と帰路に着く足も軽なっていた。
買い物袋がいつもよりが軽かった。
吐いた息は白く、木の葉は落ちきるこの冬。
彼が私のもとから離れていってしまったからだ。
「はぁ」と白い息を吐き出す。
空気は乾燥し、酷く寒いはずなのに目もとは赤く腫れ、なにか溢れるほどに潤っていた。
私の左側を歩き、袋の持ち手を分け合った彼はもう居ない。
いつもより買い物袋が軽かった。けれど、いつもより私の心と帰路につく足は鉛のように重かった。
「あなたが仕事をしているところが見てみたいの」
とパソコンを広げなにやらカタカタとキーボードを打っている私の親友が言った。
「そういえば見たことないのよね。あなたが仕事をしてるところ?何してるかもよく分からないし」
「……あなたに汚れているところを見せたくないの」
「そう?私はそんなの気にしないわよ」
……違うの。純粋で綺麗なあなたには汚い私側の世界を知らないままで……
「この前ねこんな話があったんだ。笑えるだろ」
君に呼びかけてみる。
「そこで俺はこう言ったんだ……」
続きを言おうとした瞬間、背中に衝撃が走った。
座って話していたら、どうやら子供がぶつかってしまったらしい。
「大丈夫かい?」
「うん……ごめんなさい…」
「いいんだよ。これくらい痛くもなんともないさ」
……そろそろいい時間か。そう思い立ち上がり、タバコを咥え、火をつけようとする。すると、ぶつかってきた子が言った。
「…タバコは体に悪いってお母さんが言ってた……大丈夫?……」
子供ながらの純粋な心配だろう。
「……心配ありがとう」
子供の頭を撫でてやる。
子供は照れくさそうな顔をしながら向こうの方へ走って言ってしまった。
「……俺もそろそろ帰るよ」
あなたの墓をやさしく撫でる。
決して返事がないことがわかっていながら、毎日ここに来て話をしている。
……体に悪い、か。
本望だな。
俺も君のもとに早く行きたい……
タバコの二つ名は……
「緩やかな自殺」なのだから。
「殺したい」
私の「愛」は、よく狂ってると言われてた。
「好きな人を自分の手で殺すのが夢なの。あなたにだって、最初にそういったはずよ!」
愛した人の唯一の人になりたくて、人生の最高潮で勝ち逃げがしたくて。
「でも、あなたは『それでもいい』と言ってくれたじゃない!勿体なくて殺せなくなるくらい、幸せにしてくれるって言ったじゃない!!」
なのに……
なのに、なんで……
「……なんで、私なんかを庇ってこんなことになっているのよ…あなたを殺すのは私。あんな、トラックなんかじゃない。だから…」
「生きて」