「─で、今日はその課題を受け取りに来たってわけだね」
「そういうこと」
不可思議なことが起きているが、むしろこれはチャンスだと受け止めるべきか。
七月二十四日をもう一度繰り返す。この日に起きる、七瀬の死因となる対象を消していけば、彼女を救えるはずだ。
「でも、もう伊織君の連絡先を持ってたのは驚いたなぁ」
そういえば、俺が七瀬に初めて会った時も、既に七瀬の連絡先が追加されてたっけ。
「七瀬は、どうして今日、学校に?」
「うーん、そういえば何でだろう。課題を取りに来たわけじゃないけど」
だが、七瀬と初対面になっているのはどうしてだろうか。俺をすでに知っていたはずだが。
思考してみるが、どうも七瀬との記憶を鮮明に思い出せない。記憶が削られたかのように。
「あ、そうだ。これ渡しておきたいな」
そう言って七瀬が取り出したのは、見覚えのある物。紫色の栞だった。
「はい、栞だよ」
思わず何も入っていないポケットを確認した。俺がこうして過去に戻ったのだから、前回、この後のバイトへ行く際に渡された物は、当然無かったことになっているわけだ。少し寂しさを感じながら、七瀬の手から栞を受け取る。
「その花はラベンダーっていって、花言葉は、」
「『期待』」
「え、そうだよ!知ってたの?」
「この出会いがきっといいものでありますように、だろ」
「うん。だから、持っていてくれると嬉しいな」
「ありがと」
そこで魔が差したのか、俺は思わず俺は試したくなってしまった。許せよ、七瀬。
「”意外と可愛い趣味してるんだな”」
「うぇぇ、可愛い趣味なんて、そんな、それほどでも、ないよ」
少し顔を赤らめながら七瀬が答える。
あ、違う。これじゃ想像と違う。今、確実にデレた。
「と、とにかくありがとうな。大事にしまっておくよ」
「あぁ、でも、ずっと持っていられるのもなんか恥ずかしいな…」
「じゃあどうしろって言うんだ…」
「わ、私より大切な人がいたら、その人にあげて!」
いいのかよ、それで。
「その人とも、いい出会いがありますようにって、願いを繋げていくの」
「ふーん、なるほどなぁ。ま、今はいないから、俺が持っておく」
「うん」
少し落ち着きがない様子で返事をして、それを沈めるように七瀬が深呼吸をする。
「よし。ねぇ伊織君、このあと、予定とかあったりするかな?」
「十時から近くのカフェでバイトがあるくらいだけど」
「そかぁ。せっかく今日知り合えたんだし、それまで一緒にどこか行かない?」
七瀬の事故を防ぐためにそのつもりではいたが、嫌な予感がする。
「最近このあたりに、おいしいクレープのお店ができたんだけど」
とにかく私についてきてもらいます。そういう意味。
「はぁ。今回も、か」
どうやら初めましての今回でも、連れ回されることは変わらないようだ。
「んー、どれにしよっかなー」
「まだ悩んでるのか。ストロベリー&チョコミルフィーユカスター…何とかでいいだろ」
「え、なんでそれで悩んでるって分かったの!?うーん、それもいいけど、よし。アイスキャラメルソース&バナナにチョコソース追加で!」
「キャラメルソースにさらにチョコソース追加するのかよ」
「えー、絶対このカスタムおいしいよ。あとで伊織君にも一口あげるから」
「いいよ。それにスイーツは抹茶系しか食べない」
前回と同じ会話をしてるな…タイムリープしてもそのあたりはやはり似てくるのか。
「抹茶かぁ。それじゃ、あのお店がいいかも!」
「おい、ちょっ…」
七瀬に強く手を引かれて連れられる。はしゃぐ笑顔を見ていると、死亡確率なんて嘘なんじゃないかとさえ思えた。
そうして連れて来られたのは、また甘い匂いがする、和菓子屋…?
「ジャーン!最近人気の和菓子喫茶、メニューもたくさんあるでしょ!」
そう言われてメニューに目を向ける。抹茶のスイーツは、っと…抹茶パフェ。以上。
「その肝心の抹茶は一つしかないじゃないか!」
「あれ?ならそれをたくさん食べよ!」
「その肝心の値段も全部俺持ちじゃないか!」
「うーん?まぁまぁ、気にしない気にしない」
その勢いのまま、七瀬が注文をしていく。
「おい待て七瀬、おい、七瀬─ッ!」
結果として、尋常じゃない量の抹茶パフェがテーブルに並ぶ。
「…これどうすんだよ」
「食べてみて!…どう?」
キラキラとした目で見つめてくる七瀬に呆れながら、一口だけ食べてみる。
「ほんとだ…おいしい!」
「でしょ!他にもあるから、ほらこっちも」
「全部同じパフェだろうが!」
─結局すべてを食べきり、気づけばもうバイトの時間になろうとしている。かなり気分は悪いが。
「もうこれ以上は…。俺はバイトだからそろそろ…うっ」
限界を耐える。なんで同じ量を食べていた七瀬はなんともないんだよ。
「バイト中に吐いたら、『何食べても抹茶の味になる呪い』かけてやる」
「何それ地味!陰湿!性格が四級呪霊!」
「それは四級呪霊に失礼だ!」
ともかく、バイトのあとの事故が肝心だ。
「俺は十七時頃にバイトが終わるけど、七瀬はそれまで学校に…」
「じゃあ、終わる頃にはそっちに向かうね」
「え、あぁ、わかった。じゃあ十七時頃に来てくれ」
学校にいれば安全かと思っていたが、まぁ、それまでは何も起きなかったはず。だとすればそれでも問題はない。
「いってらっしゃーい。吐かないでねー、四級くーん」
呪う。絶対に呪う。
「そういうこと」
不可思議なことが起きているが、むしろこれはチャンスだと受け止めるべきか。
七月二十四日をもう一度繰り返す。この日に起きる、七瀬の死因となる対象を消していけば、彼女を救えるはずだ。
「でも、もう伊織君の連絡先を持ってたのは驚いたなぁ」
そういえば、俺が七瀬に初めて会った時も、既に七瀬の連絡先が追加されてたっけ。
「七瀬は、どうして今日、学校に?」
「うーん、そういえば何でだろう。課題を取りに来たわけじゃないけど」
だが、七瀬と初対面になっているのはどうしてだろうか。俺をすでに知っていたはずだが。
思考してみるが、どうも七瀬との記憶を鮮明に思い出せない。記憶が削られたかのように。
「あ、そうだ。これ渡しておきたいな」
そう言って七瀬が取り出したのは、見覚えのある物。紫色の栞だった。
「はい、栞だよ」
思わず何も入っていないポケットを確認した。俺がこうして過去に戻ったのだから、前回、この後のバイトへ行く際に渡された物は、当然無かったことになっているわけだ。少し寂しさを感じながら、七瀬の手から栞を受け取る。
「その花はラベンダーっていって、花言葉は、」
「『期待』」
「え、そうだよ!知ってたの?」
「この出会いがきっといいものでありますように、だろ」
「うん。だから、持っていてくれると嬉しいな」
「ありがと」
そこで魔が差したのか、俺は思わず俺は試したくなってしまった。許せよ、七瀬。
「”意外と可愛い趣味してるんだな”」
「うぇぇ、可愛い趣味なんて、そんな、それほどでも、ないよ」
少し顔を赤らめながら七瀬が答える。
あ、違う。これじゃ想像と違う。今、確実にデレた。
「と、とにかくありがとうな。大事にしまっておくよ」
「あぁ、でも、ずっと持っていられるのもなんか恥ずかしいな…」
「じゃあどうしろって言うんだ…」
「わ、私より大切な人がいたら、その人にあげて!」
いいのかよ、それで。
「その人とも、いい出会いがありますようにって、願いを繋げていくの」
「ふーん、なるほどなぁ。ま、今はいないから、俺が持っておく」
「うん」
少し落ち着きがない様子で返事をして、それを沈めるように七瀬が深呼吸をする。
「よし。ねぇ伊織君、このあと、予定とかあったりするかな?」
「十時から近くのカフェでバイトがあるくらいだけど」
「そかぁ。せっかく今日知り合えたんだし、それまで一緒にどこか行かない?」
七瀬の事故を防ぐためにそのつもりではいたが、嫌な予感がする。
「最近このあたりに、おいしいクレープのお店ができたんだけど」
とにかく私についてきてもらいます。そういう意味。
「はぁ。今回も、か」
どうやら初めましての今回でも、連れ回されることは変わらないようだ。
「んー、どれにしよっかなー」
「まだ悩んでるのか。ストロベリー&チョコミルフィーユカスター…何とかでいいだろ」
「え、なんでそれで悩んでるって分かったの!?うーん、それもいいけど、よし。アイスキャラメルソース&バナナにチョコソース追加で!」
「キャラメルソースにさらにチョコソース追加するのかよ」
「えー、絶対このカスタムおいしいよ。あとで伊織君にも一口あげるから」
「いいよ。それにスイーツは抹茶系しか食べない」
前回と同じ会話をしてるな…タイムリープしてもそのあたりはやはり似てくるのか。
「抹茶かぁ。それじゃ、あのお店がいいかも!」
「おい、ちょっ…」
七瀬に強く手を引かれて連れられる。はしゃぐ笑顔を見ていると、死亡確率なんて嘘なんじゃないかとさえ思えた。
そうして連れて来られたのは、また甘い匂いがする、和菓子屋…?
「ジャーン!最近人気の和菓子喫茶、メニューもたくさんあるでしょ!」
そう言われてメニューに目を向ける。抹茶のスイーツは、っと…抹茶パフェ。以上。
「その肝心の抹茶は一つしかないじゃないか!」
「あれ?ならそれをたくさん食べよ!」
「その肝心の値段も全部俺持ちじゃないか!」
「うーん?まぁまぁ、気にしない気にしない」
その勢いのまま、七瀬が注文をしていく。
「おい待て七瀬、おい、七瀬─ッ!」
結果として、尋常じゃない量の抹茶パフェがテーブルに並ぶ。
「…これどうすんだよ」
「食べてみて!…どう?」
キラキラとした目で見つめてくる七瀬に呆れながら、一口だけ食べてみる。
「ほんとだ…おいしい!」
「でしょ!他にもあるから、ほらこっちも」
「全部同じパフェだろうが!」
─結局すべてを食べきり、気づけばもうバイトの時間になろうとしている。かなり気分は悪いが。
「もうこれ以上は…。俺はバイトだからそろそろ…うっ」
限界を耐える。なんで同じ量を食べていた七瀬はなんともないんだよ。
「バイト中に吐いたら、『何食べても抹茶の味になる呪い』かけてやる」
「何それ地味!陰湿!性格が四級呪霊!」
「それは四級呪霊に失礼だ!」
ともかく、バイトのあとの事故が肝心だ。
「俺は十七時頃にバイトが終わるけど、七瀬はそれまで学校に…」
「じゃあ、終わる頃にはそっちに向かうね」
「え、あぁ、わかった。じゃあ十七時頃に来てくれ」
学校にいれば安全かと思っていたが、まぁ、それまでは何も起きなかったはず。だとすればそれでも問題はない。
「いってらっしゃーい。吐かないでねー、四級くーん」
呪う。絶対に呪う。