はっきりとしない意識の中で目を覚ます。見渡すと薄暗く、周りは白い布にかこまれている。
 記憶を辿りながら、病院であることを思いだして、自分の頭に手を添える。包帯で何重にも巻かれた頭を抱えながら、ベッドから身体を起こしていると、病室の奥から飛び出してきた看護師に止められる。

「伊織くーん、まだ起きちゃだめって、先生にも言われていたでしょう」

 されるがままに再びベッドに寝かせられつつも、看護師のほうに目を向ける。

 『5%』

 頭上のあたりにうっすらとイメージが浮かぶ。またこの数字だ。この病院で目覚めてから、ずっと付きまとっている。この数字は何を教えているのだろうか。それが分かったら、両親は姿を現してくれるのだろうか。
 交通事故、というものに遭ってから、両親は一向に姿を見せてくれない。看護師にそのことを聞いても、決まって全員、暗い顔をするだけだ。

 こないだの看護師は8%、25%の患者。前にすれ違った痩せた年寄りのおじさんは、もっと高かった。それに、数字を覗いた人が記憶に鮮明に残っている。
 考えているうちに意識は遠のいて、また眠りについていく…。



 ─けたたましく響く蝉の声と、それを背に優しげな声が聞こえてくる。

「…の、…ますか?あの…大丈夫?起きてますか?」

 側でささやく声に、引き戻されていく意識。ゆっくりと目を開け、寝ぼけ眼で辺りを見回してから、ようやくそこが教室であることに気づく。
 どうやら机に突っ伏して寝てしまっていたようだ。夢でも見ていたのだろうか。それに、聞き覚えのある声は。

「七瀬!?」

 跳ね起きながら思わず声を上げる。七瀬は確かに轢かれたはず…。目の前の状況に戸惑うが、その時の記憶をあまり鮮明に思い出せない。

「はい、七瀬です。夏季休業が始まったのにこんな朝早くに教室で寝てるから、少し心配で起こしちゃいました。ごめんなさい」
「いや、それはいいんだけど、それより七瀬は大丈夫なのか?それに、俺自身、どうなったのかよく憶えていなくて」

 思わず一方的に聞いてしまう。次々と言葉を投げる俺に、七瀬は一言だけ放った。

「えっと、私のことは知っているみたいだけど、君は?」
「…は?」

 何かの冗談だろうか?少し戸惑っていると、さらに言葉を続ける。

「あ、じゃあ、改めて自己紹介しよっか。私は、七瀬なつせです。初めまして、よろしくね」
「いや、何言ってんだよ。徹だよ、伊織徹」
「伊織徹かぁ、じゃあ、伊織君ね!よろしく!あ、えっと…お願いします、伊織君」

 なんだよこれ。冗談にしては現実的すぎる。どうして学校にいる?それに七瀬はなんともないのか?俺は七瀬をもう一度見てみる。

 『99%』

 昨日とまったく変わらないその数字が、七瀬を通して浮かび上がる。全くの無傷で、それに様子がおかしい七瀬。一つ、自分でもまさかとは思う考えが脳裏をよぎる。

「七瀬、自己紹介ついでに一つ聞きたいんだけどさ」
「え、あ、うん!何でも聞いて」
「…今日って、何日」
「え?今日は確か七月の、#二十四日__・__#だよ」

 まさかあり得るはずがない。だがそのまさかは現実になっている。七瀬と出会ったはずの二十四日は昨日などではない。そして時計が示す時刻は午前八時。つまり考えられることは。


 ─どうやら俺は、過去へ戻ってきたようだ。