フリーになった僕はまず近くのATMへ向かった。入力した金額は百万円。すると、弾かれてしまった。なんと、引き出し限度額が五十万円らしい。仕方なく五十万だけ下ろしたが、札束の厚みと重みにおののく。たちまちナンバーワンホストの気持ちで、肩で風を切って街へ繰り出す。
 まず向かったのは久々のパチンコ屋。『パチンコで豪遊』するため、電飾が色褪せた古い店を訪れた。客はまばらで、中年以上のおっさんの巣窟だ。単価の高いデイサービスのようなものである。お気に入りのエヴァンゲリオンの台に座った。一円パチンコしかしたことない僕が、リッチに四円パチンコに挑戦する。早速、ピン札を投入。久しぶりのパチンコは、思ったより音が大きい。効果音が脳髄に直撃する。これでおじさんたちは頭がおかしくなってしまうのだろう。
 パチンコは大学の頃にハマったことがある。友達に連れられていったとき、何の知識もないのに大当たりを連発した。ビギナーズラックというのは実在するらしい。そこから勉強しながらパチンコを続けたが、負けまくった。最初行ったときは、店の者にカモだと思われて恣意的に大当たりを出されたのだろうか。大人の社会というものを痛感した。それからもう十年以上いっていなかった。
 リーチを五回ほどあったが、全て外れた。そして一万円終了。そんなバナナ。そんなバナナとか言ってしまうくらい瞬殺された福沢諭吉。ただ、コンセプトは豪遊なので、こんなところでくじけない。立て続けに四体の諭吉を戦地に投入した。しかし一時間ほどで焼け野原になった。
 諭吉五体が消えた。こんなに諭吉が儚い存在とは知らなかった。五万円と言えば、四日分くらいの給料だ。上司に頭を下げ、他部署に頭を下げ、取引先に頭を下げて勝ち取った五万円を一時間で葬った。会社員時代の地面を這えずりまわった日々は何だったのかと、怒りがこみあげてパチンコを中断した。
 すると、隣に日に焼けたおっさんが座ってきた。祖父が昔着ていたような、薄汚い紺のブルゾンを羽織っている。おっさんは大切そうに野口英世を投入した。それを見て僕も英世を投入して、ながら運転をする。
 五分も経たずにおっさんの英世は戦死した。くそっ、とパチンコ台を叩いて舌打ちするおっさん。僕の英世も当然霧散したあと、おじさんに声をかけてみた。
「バイトしませんか?」
 おっさんはこちらを一瞥してまた台を睨んだ。