「こんな日が来るとは」僕は感慨深げにつぶやいた。
 ある程度予想していたが、村田の家は割と近かった。十分もせずについてしまった。
 一軒家の前で降ろされた。表札には『村田』の文字。どうやらここらしかった。家は思いのほか大きい。新しくはないが、二階建ての立派な二階建ての民家だ。表札の情報だと、村田は母、妻、娘二人と暮らしているらしい。思いのほか女性に囲まれて、幸せな暮らしをしているようだ。
 外から家の様子を覗っていたが、カーテンが閉め切られていて、よくわからない。
 陽も刻々と傾いてきていた。そんなに時間はなかった。
「ね、どうするの?」えみが心配そうに尋ねる。
「復讐って何をするの?」
「どうしましょうかね」僕は思案した。
「ナイフとか持ってないよね? あまりにやばそうなことするなら去るよ」
「残念ながらナイフ忘れました。もったいなかったです」僕が真顔で答えると、えみは目を見開いた。
「冗談やめてよ」
「冗談ではないです。ずっと復讐を待っていました」
「怖いな」
「復讐とはそういうものです」
 たしかに、あのときからずっと恨んでいた。村田のことは許さないと思っていた。それをぶつけるときが来てしまった。
 家の中から微かに人の声がした。中には誰かいるようだ。村田も定年退職後ということは、平日だが家にいる可能性は高そうだ。
「行ってきます」僕は颯爽と歩き出した。
「大丈夫? 変なことやめなよ」
 途端に母親みたいな態度になるえみ。それを振り切って、僕は歩を速めた。
 玄関にたどり着き、そのままの勢いでチャイムを押した。
 固唾をのんで見守っていると、中からようやく女性の声がした。ゆっくりとドアが開く。どうやら奥さんらしい。
「何でしょうか?」
「吉田高校の卒業生です。昔村田先生にお世話になりました。この度東京からご報告があって、お伺いしました」極めて丁寧に話しかけた。こんなところで営業の振る舞いが発揮されている。
「そうですか。それはそれは、ありがとうございます」奥さんも少し頭を下げた。
「奥にいるので、今呼んできます」
「ありがとうございます」驚きつつもひとまずお礼を述べた。
 ついに十三年ぶりの対面を果たすことになる。憎き男との直接対決だ。
 待っている時間が異様に長く感じた。緊張でお腹が二度ほど鳴った気がする。