適当に組んでと言われるのが、思春期の学生は一番難しい。そんなこともわからず、任せられた生徒はやや右往左往しながら、グループを作っていく。そんな中、僕はどこのグループにも入れず、入らずにいた。仲間外れっぽくなるのも癪だから、グレているように見せるため、ずっとケータイを見ていた。ただ、特に新着メールなどもなかったため、画面を見つめていただけだ。すると、いつの間にか村田が近づいてきていた。
 僕は咄嗟にケータイを閉じて、前を見た。怒られるだろうな、と思いつつ、心の一部では、『大丈夫か、入るグループないなら、そこのグループ入ってみろ』などと助け船を出してくれることも期待した。ただし現実は違った。
「やる気がないなら帰れ」
 一言残して、村田は去っていった。死刑宣告のようなものだった。体が一気に熱くなったのを覚えている。
 やる気がないわけはない。研究者を目指していた僕は、一番熱心に受けたかった授業だ。でもそんなことは微塵も伝わらなかった。絶望した僕は荷物をまとめて出て行った。
 その日を境に僕は明確にクラスから浮いていき、結果として高校を中退した。
 ただそれだけの思い出話だ。
「で、ここで何するの? どうやって復讐するの?」えみが急かしてきた。
「手掛かりはここしかないですからね。僕と村田との接点は」
「村田は今何歳くらい?」
「当時でもう五十近かったと思うので、定年退職していると思います」
「じゃあまず住所を特定しないといけないね」
「ひとつ考えがあります」
 この個人情報保護社会にて、すでに異動・退職した教員の住所を引き出すなど、非常に難しいことは承知している。
 チャンスは一度しかない。それを仕留めないといけない。僕は考えていた作戦をえみと共有して、打ち合わせた。
 僕らは二人で校舎に乗り込んでいく。今時、学校にも警備員の一人くらいいるかと思ったが、入り口にはいなかった。僕は教員用の玄関から静かに入り、傍らにあった小窓に声をかけた。
「すみません、卒業生の者です。藤吉和志と言います」
 僕は丁寧に免許証を差し出した。
「ご苦労様です」応対してくれたのは、事務員らしきおばさんだった。
「実は、今度僕たち結婚することになったんです」
 えみを紹介すると、柔和な笑みで反応してくれた。リアルな演技だ。認めたくはないが、こういう組み合わせのカップルは普通にそうな気がする。