普通ならこの強盗みたいな状況に不審がると思いきや、高齢ドライバーは指示通りにすぐ発進させてくれた。お客様は神様の精神、すばらしい。
従業員もそこまで本気で追ってこなかった。金を盗んだわけではない、あげただけだ。
「これでリスト完了ね」
「そうですね」
「でももったいないな、あのお金。私なら有効に使うのに」
「リッツカールトン十泊ですか?」僕がおどけて言った。
「カニフルコース四十回かな」彼女もおどけてみせた。
置いてきたお金がどう使われるかは知らない。もしかしたらあのお姉さんが私腹を肥やすだけかもしれない。でも、僕らが使うより、大事に有効に使ってくれると確信した。未練はなかった。
タクシーが到着したのは、我が母校だった。懐かしの吉田高校だ。中退して以来、一切立ち寄っていないので、もう十三年ぶりくだいになる。久しぶりだが、当時も立て替えてそんなに時間が経っていなかったから、今でもそれほど古くない。
「来ちゃったね」えみが校舎を眺めながら言う。
「そうですね」
この場所が、自分の人生の分岐点であり、このやりたいことリストにおいても集大成なのだと実感した。
「ここだよね。『村田に復讐』は」
「よくわかりましたね」
「これだけダントツで物騒なのよ。ほかのリストは笑えるけど、これだけ笑えないの」えみが少し引きながら言う。
「奴だけは許せないんです」僕は真顔で舌打ちした。
思い出したくもないが、奴は物理の教師だった。短髪で丸顔の眼鏡。目が細くて、理系人間らしい、絡みづらいタイプだった。授業もすこぶるつまらない。みんな興味が薄れていたが、前の席の特に女子にだけ熱心に当てたりして、双方向感を演出していた。思えばかわいい女子にばかり当てて、会話を楽しんでいた。
そんなことはどうでもいいが、あれは高校二年で僕が心臓手術から復帰したての授業だった。クラス替え直後に入院し、身も心もすり減らしながらかろうじてカムバックしていた。なんとか通い始めたが、クラスに友達など皆無で、やる気もなかった。そんな折、物理の授業では、村田がいきなりこう言った。
「二、三人で適当にグループになって。実験やるから」
従業員もそこまで本気で追ってこなかった。金を盗んだわけではない、あげただけだ。
「これでリスト完了ね」
「そうですね」
「でももったいないな、あのお金。私なら有効に使うのに」
「リッツカールトン十泊ですか?」僕がおどけて言った。
「カニフルコース四十回かな」彼女もおどけてみせた。
置いてきたお金がどう使われるかは知らない。もしかしたらあのお姉さんが私腹を肥やすだけかもしれない。でも、僕らが使うより、大事に有効に使ってくれると確信した。未練はなかった。
タクシーが到着したのは、我が母校だった。懐かしの吉田高校だ。中退して以来、一切立ち寄っていないので、もう十三年ぶりくだいになる。久しぶりだが、当時も立て替えてそんなに時間が経っていなかったから、今でもそれほど古くない。
「来ちゃったね」えみが校舎を眺めながら言う。
「そうですね」
この場所が、自分の人生の分岐点であり、このやりたいことリストにおいても集大成なのだと実感した。
「ここだよね。『村田に復讐』は」
「よくわかりましたね」
「これだけダントツで物騒なのよ。ほかのリストは笑えるけど、これだけ笑えないの」えみが少し引きながら言う。
「奴だけは許せないんです」僕は真顔で舌打ちした。
思い出したくもないが、奴は物理の教師だった。短髪で丸顔の眼鏡。目が細くて、理系人間らしい、絡みづらいタイプだった。授業もすこぶるつまらない。みんな興味が薄れていたが、前の席の特に女子にだけ熱心に当てたりして、双方向感を演出していた。思えばかわいい女子にばかり当てて、会話を楽しんでいた。
そんなことはどうでもいいが、あれは高校二年で僕が心臓手術から復帰したての授業だった。クラス替え直後に入院し、身も心もすり減らしながらかろうじてカムバックしていた。なんとか通い始めたが、クラスに友達など皆無で、やる気もなかった。そんな折、物理の授業では、村田がいきなりこう言った。
「二、三人で適当にグループになって。実験やるから」